ここでは、登山における『ミドルレイヤー』をまとめます。
登山用品店で働いていると、よく登山のウェアについての相談をうけます。
「そもそもレイヤリングを理解していない」というひとから「調べすぎて逆によく分からなくなってしまった」というひとまでさまざまですが、たしかに『ミドルレイヤー』といわれるジャンルは年をおうごとに多様化していて、かなり分かりづらいのが現状ではないでしょうか。
そこで、ここでは
- そもそもミドルレイヤーってなんだっけ
- どんなアイテムがあるの?
- アイテムごとの特徴
- どうやってつかい分ければいいのか
という4つのポイントを整理していきますよ!
目次
ミドルレイヤーとその素材について
本題に入るまえに、『ミドルレイヤー』の役割と素材について確認しておきますね。
ミドルレイヤーを語るうえでキーになるところなので、まずはここをしっかり押さえてください。もちろん、「そんなの知ってるよ!」というひとは読み飛ばしていただいて構いません。
そもそもミドルレイヤーって?
ヨウコ
ソウジュ
登山の服装には『レイヤリング』というシステムがあります。登山のウェアというのは、おおきく3種類にわけることができるんですね。まとめるとこんな感じ。
レイヤー | 役割 | 具体的なアイテム |
---|---|---|
ベースレイヤー | 肌をドライにたもつ | 速乾性のTシャツ |
ミドルレイヤー | 体温を調節する | フリースやダウン |
アウターレイヤー | 雨や風・雪をふせぐ | レインウェア |
うえから肌に近い順でならんでいて、ベースレイヤー(速乾Tシャツ)とアウターレイヤー(レインウェア)の間に着るフリースなどが『ミドルレイヤー』。「中間着」とか「ミドラー」なんていわれることもありますね。
レイヤリングの詳しい説明は別の記事を用意することとして、とりあえずは「体温を調節するためのウェア」と思ってもらえれば大丈夫です。
ミドルレイヤーの素材と特徴
体温調節を担うミドルレイヤーですが、その素材は大きく『ダウン』と『化学繊維』のふたつに分けることができます。
素材 | メリット | デメリット |
---|---|---|
ダウン | 軽い・コンパクト | 濡れに弱い・高価 |
化学繊維 | 濡れにつよい・安い | 重い・かさばる |
ダウンは「軽くてコンパクト」というメリットがありますが、「濡れると保温性が大幅にダウンしてしまう」という致命的な欠点があります。
ソウジュ
ヨウコ
そのため、雨や汗で濡れるようなコンディション(つまり行動中)ではあまりつかうことができません。
一方の化学繊維は濡れても保温性がさがらないので、行動中にも積極的につかうことができます。しかし、重くてかさばるので「がっつり温まりたい!」というときには不向きです(荷物がめちゃくちゃ増えてしまう)。
ですので、ダウンは停滞時(山小屋やテント場にいるあいだ)、化学繊維は行動しているあいだに着る、という使い分けをするのが一般的です(夏などはどちらか片方だけで済ませることも可能)。
ミドルレイヤーまとめ
さて、ここからが本題です。まずは『ミドルレイヤー』といわれるウェアを集めてみました。
アイテム | 保温力 | 通気性 | 濡れへの強さ |
---|---|---|---|
登山シャツ | E | A | E |
フリース | D | B | C |
ハードフリース | C | C | B |
アクティブインサレーション | C | C | B |
インサレーション(化学繊維) | B | E | A |
インサレーション(ダウン) | A | E | D |
具体的な商品によっても変わってきますが、だいたいこんな傾向になるはずです(Aが強い、Eが弱い)。下にいくほど保温力がアップするように並べました。
聞きなれないアイテム名もあるかもしれませんが、ここから具体的に説明していきますね。
登山用シャツ
登山シャツ(山シャツということもあります)は、だれでも見たことがあるのではないでしょうか。見た目はふつうのシャツ(そしてなぜかほぼ確実にチェック柄)で、ポリエステルなどの化学繊維でできています。
登山用シャツのメリットとデメリット
こまかな体温調節ができる
非常時に三角巾としてつかえる
保温力がひくいため用途が限られる
薄くて通気性もいいのでこまかい体温調節ができます。
保温力はひくいので、これ1枚で「防寒はバッチリ!」といえるのは真夏の低山(1000m以下)くらい。化学繊維ではありますが、濡れたら保温という意味ではあまり役にたちません。
変則的なつかい方としては三角巾としてつかうことも可能。ハサミなどがなくても手で裂けるので、非常時になにもない場合に役立つでしょう。
登山用シャツの使いどころ
- 春〜秋の3シーズン(とくに夏)
- ベースレイヤーだけでは肌寒いとき
- 日焼け防止に
3シーズン専用のミドルレイヤーというイメージ。
ソウジュ
登山用フリース
登山のミドルレイヤーの大定番、フリース。アウトドアメーカー各社から似たような商品がでているので、選択肢もたくさんあります。
登山用フリースのメリットとデメリット
保温力と通気性のバランスがよい
1年を通してつかえる
毛玉ができやすい
保温性と通気性のバランスがよく、1年をとおして(厳冬期をふくめて)大活躍のウェア。1枚あるととても重宝します。厚さ・毛足の長さにいろいろなバリエーションがありますが、まずは薄手のものがおすすめ。
ストレッチがきいているのでストレスもなく快適ですが、毛玉ができやすいのが唯一の欠点です。
登山用フリースの使いどころ
- オールシーズン
- 気温がひくいとき(秋〜春)の行動着
- 夏の防寒着として
保温力自体はそれほど高くないので、秋〜春の低温時には行動着としてバリバリ使えます。
また、夏はこれ1枚で防寒着に。「1枚だけだと寒い(夏の3000m稜など)」というときには、レインウェアを羽織ればだいたい大丈夫です。
ハードフリース
フリースの表面をすこしバリッとかたくしたようなウェアで、ジャンルとして確立しつつあるウェア。表側はわりとツルツルしていて、裏側はフリースそのもの。
具体的な商品名をあげると、ノースフェイスの『ヒューズフォームグリッドフーディ』やパタゴニアの『R1テックフェイスフーディ』など。
ハードフリースのメリットとデメリット
フリース由来の保温性と通気性のバランス
毛玉や摩擦への弱さなど、フリース特有の弱点がない
フリースよりも使う場面を選ぶ(?)
ソウジュ
フリースの良さをそのままに、毛玉や摩擦への強さを上乗せしています。表面のケバ立ちや起毛がないぶん、フリースよりも濡れに強くなっているはず。
表面を硬くしたことでフリースより通気性がおちるはずなので(逆にいえば耐風性があがった)、フリースよりも使う場面を選びそうな印象です。
ハードフリースの使いどころ
- オールシーズン
- フリースよりも低温、悪天候むき
- クライミングの保温着として
使いどころとしてはフリースとほとんどかわりませんが、すこし保温力がアップしていたぶん低温むけのウェアといえるでしょう。とくにウェアを擦ったりすることがおおいクライミングには相性抜群です。
アクティブインサレーション
2015年ごろに誕生した新ジャンル。『インサレーション』は『遮断』という意味なので「寒さを遮断するためのウェア」というイメージ。さらに『アクティブ』なので、行動中の使用をメインに考えた防寒着です。
コンセプトとしてはフリースやハードフリースと同じような感じ。
具体的な商品名をあげると、パタゴニアの『ナノエア』シリーズやノースフェイスの『ベントリックス』シリーズ。こちらも各社から似たような商品が開発されています。
アクティブインサレーションのメリットとデメリット
着心地のよさと保温性・通気性のバランス
1年を通してつかえる
フリースよりも用途が限られる
イメージとしてはフリースよりもちょっと保温力が上、ハードフリースと同じようなポジションです。メリットデメリットもおなじような感じ。
特筆するとすれば、その着心地と肌触りのよさ。布団のようはサラサラふわふわの着心地はやみつきになります。
アクティブインサレーションの使いどころ
- オールシーズン
- フリースよりも低温、悪天候むき
こちらもハードフリースとおなじような感じ。商品によって表面が違うので一概にはいえませんが、擦れにはあまり強くないのでクライミングに使うならハードフリースのほうが良さそうです。
インサレーション(化学繊維)
さきほど説明したとおり、「寒さを遮断するためのウェア」で、中綿が化学繊維でできたもの。停滞時(テントや山小屋、就寝時)と行動中の両方で使うことができます。
具体的にはパタゴニアの『マイクロパフ』や『ナノパフ』あたり。
化繊インサレーションのメリットとデメリット
濡れても保温力が下がらない
ダウンよりも保温力がひくい
重さあたりの保温力はダウンには及ばないので、やはり重くかさばるのがデメリット。
そのぶん、濡れに強いのがメリットです。フリースなどよりも「かさ」があるので、濡れても保温力はしっかり確保してくれます。
化繊インサレーションの使いどころ
- 気温がひくい季節(秋〜春)
- 行動着としても停滞中の防寒着としても
- 長期の縦走
- クライミングのビレイ中
気温のひくい季節が中心になります。
行動中と停滞中の両方でつかえますし、結露などで停滞中でもダウンが濡れてしまうようなコンディションで重宝します。
また、アウター(レインウェアやハードシェル)の内側だけでなく、外側に着ることもあります。
インサレーション(ダウン)
停滞時の防寒に特化したウェアで、中綿がダウンでできたもの。
化学繊維とハイブリッドにしたり、ダウンに撥水加工をするなど濡れへの対策もしてある商品がでてきている。
ダウンインサレーションのメリットとデメリット
保温力が抜群
濡れに弱い
とにかく保温力を求めるなら重宝します。撥水加工などで対策しているとはいえ、濡れには弱いのがデメリット。
ダウンインサレーションの使いどころ
- 気温が極端にひくい季節(おもに冬)
- 基本的には停滞時(雪や雨で濡れない)コンディション
ほぼほぼ冬専用ウェアといえるでしょう。厳冬期にテント泊をするひと以外は必要ありません。アウターの外側に着ることが多いですね。
季節ごとのミドルレイヤーの使い分け
ここまで各アイテムの説明をしてきましたが、最後にもういちど、季節別の使い分けという視点で整理してみたいと思います。
季節 | 用途 | シャツ | フリース | ハードフリース | アクティブインサレーション | 化繊インサレーション | ダウンインサレーション |
---|---|---|---|---|---|---|---|
春 | 行動着 | A | A | A | A | B | C |
春 | 防寒着 | C | B | B | B | A | A |
夏 | 行動着 | A | B | B | B | C | C |
夏 | 防寒着 | B | A | A | A | A | B |
秋 | 行動着 | A | A | A | A | B | C |
秋 | 防寒着 | C | B | B | B | A | A |
冬 | 行動着 | C | A | A | A | B | C |
冬 | 防寒着 | C | C | C | C | A | A |
Aが最適、Cが不適というかたち。
用途は『行動着』と『防寒着』という観点で分けています。
冒頭でもチラッとお話しましたが、テント泊や小屋泊など、動かない時間をふくむ登山では、『行動中のミドルレイヤー』と『停滞中のミドルレイヤー』を別々で用意するのが理想的です(時期やアイテムによってはひとつで済ませることも可能)。
フリース・ハードフリース・アクティブインサレーションの用途の広さがよくわかりますね!
まとめ:スタイルにあったミドルレイヤーを選ぼう!
かなり長くなってしまいましたが、だいたいミドルレイヤーの全体像が見えたでしょうか。
ひとことで『ミドルレイヤー』といっても、その中身はアイテムによってさまざま。登山の季節やスタイルによって選ぶべきウェアは変わってきますよね。
この記事を参考にして、いい感じのミドルレイヤーを見つけてください!
夏~秋の3シーズンとありますが、夏と秋の間に何か特別なシーズンがあったりするんでしょうか…?
ご指摘ありがとうございます。
「春〜秋の3シーズン」の書き間違えでした!